春の伺う風分ける今日この頃、皆さま如何お過ごしでしょうか。
はじめまして、MURAバんく。の土屋と申します。
この度COMPLEXから発売となります、新譜「喪服の裾をからげ / ひみつ」が出来るまでの”周辺”をコラムとしてこさえさせて頂くこととなりました。
何か時間が空いた時などにでも読んで頂ければ幸い中の大幸いでございます。
では失敬いたします。

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第一回 「出会す」

「カセットテープで出さない?」
神無月の頃、下北沢は某ファミレスにてレーベルの主、あゆさんにそう告げられた。
「面白そうですね!」と言ったものの胸中では(ま、待てよ…)と浅めのブレーキが、いや浅めの急ブレーキがかかった。

私にカセットテープとの繋がりは殆どない…!

97年生まれである私にとってカセットテープという文化は身の遠いものであった。触れた経験は無く、それ故にモノの説明がちゃんと出来ない状態で「面白そう」という理由だけでリリースするのもカセットテープという文化に対して失礼な気がしてしまい少し気が引けてしまったのであろう。

私にとって身の近い存在はCDである。初めて買った音源の媒体もCD、それをPCに入れiPod に取り込む。ウォークマンとの繋がりも無かった。
「CDはどうですか?」とそ~っと伺いを立ててみた。

「ん~ん、COMPLEXからはカセットテープで出しましょう!」

園子温映画の様な半ば巻き込まれる形で今作のモノづくりの幕は切って落とされた。
私にあるのは興味とたしかなワクワクだけ。一つ面が進んだ感覚がした。
そして話はスプラトゥーン2のギアの話題に戻った。

カセットテープ。(それこそスプラトゥーンのステージで宙に揺蕩っていた)
触れた経験が全くないと言ったもののボンヤリと記憶があるようで、じぃっと過去の記憶を思い出してみた。

…あ、宿題じゃん。幼い頃通っていた英会話教室での宿題じゃん。
え、………そこだけじゃん。

そこだけであった。今会っても顔見知りとも言えぬ距離感である。とりあえず相手側が認識している可能性もなきにしもあらずなため、会釈だけはしておくか…といった具合である。

ところがどっこいそんな体験は無い私にもカセットテープへ馳せる一方的な憧憬の念は幾つかある。

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーのop。スパイダーマン:スパイダーバースのマイルスが蜘蛛に噛まれるシーン。METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAINの作中でのアイテム。MoonChildの“The List”のmvの女の子。そしてそして、アニメのけいおん‼︎においてもとても大切なアイテムとして存在していた。(CDの初回にカセットがたしか付いていた)

どれもかっちょいい。そして思い返すと気づくことがあった。
それはどのキャラクターも自身の指でカチッと再生して、その瞬間(シーン)の上でキャラクターと音楽が共鳴して物語は始まったり進んだりしていることだ。

其々の日常の中での「再生」で景色が変わる。
そして腰に付けて歩きながら聴くだなんて、まさに冒険にはもってこいのアイテムではないか。

よし、再生した時にその本人が主人公(プレイヤー)として、きいて歩いてもらえる様なモノにしよう。
“The List”の女の子みたくききながら闊歩してもらえたら本望だ。
音楽は我々MURAバんく。の今のリアル(生)をストレートに録音しよう。
そして、多くの人にきいてもらえる、手に取ってもらえた時に無性にわくわくモノにしよう。
散った蜘蛛の子が集う様にイメージが固まっていた。

そしてカセットテープに歩み寄る日々は続いた。
朝ケッタマシンを漕ぐ時も、バイト中も、飯を食う時も、ゲームしている時も。ザ・四六時中。そんな日々は日常となった。
(しかし、この先に”エンドレスウィンター“が続くことをこの時の私は知る由も無かった…!)

年末年始あたりに録音が予定されていたため曲をどうするか考えた。
カセットテープはA面、B面の両面で一作品となる。

(ん~、A面…B面…両面かあ…、あ、二律背反…!これだ!
このご時世を生きる我々の一面を二つの角度から見る様なイメージ、これだ!
だとしたらA面は「セカイ系」でB面は「日常系」にしよう!
でも、アニメに寄り過ぎているし…、あゆさん的にどうなんだろうか…。
あ、でもこの前某ラブコメ的アニメを見返してたなんて話してたな…!いや意外とあゆさんもアニメ見たりするもんなんだよなあ…、よし、聞いてみるか…!)

すると先輩と目が合い「ぼ~っとしてんなよ」という圧を感じたので、私は瞬時にバイトモードに切り替えた。
そしてあゆさんより承諾は得られた。

これはこれまでの説明もしなくては伝わらない、長くなるのであまり書けないが「MURAバんく。をCOMPLEXから出すには」というテーマが私の中で一つ目の鬼門であった。
今までだったらヲタク的な発想や悪ふざけをライヴだったり音源でそのまま試すことが出来たが(そのまま試すんじゃあないよ)今回ばかりはそうはいかない。
会ったばかりの時、あゆさんとの会話の中で「MURAバんく。にある呪いを解く」といったワードがよく出た。
大学の頃、変に閉鎖的になり生じたバグである。トホホホホ。

『REV.01』を聴きながら考えた。ここにMURAバんく。を今までの状態のまま投入することは想像がつかない、どうする…と。
その考えた末に出た考えはCOMPLEXに「寄る」というよりは如何に「迎合」できるかということだ。

あゆさんとの会話の中でビビビを感じる瞬間がある。
そして私は知っている。レーベルの主、あゆさん自身も思考や精神はヲタクであるということを。

アニメやゲームの話を省いても、もっといったら音楽の話も省いても、あゆさんはヲタクの人といえる。
それは日々、触れる物事や思考などに於ける様々な構造についてじぃっと研究されているイメージがあるのだ。
それ故にアンテナが高く、直ぐ察知される。メンバーも含め、直ぐ察知されるのだ。
謂わばプリセットヲタク…?
いや、リスペクトを込めて思っているのだが、あまりレーベルの主をヲタク呼ばわりするのもよろしくない。
(ちなみに私の思うヲタクとは世間上での意味でなく、熱が露呈しても安心できる空間のようなものである。)

兎に角、全然違うけど凄い近いビビビが会話の中にあり、その熱を便りに考えれば次第に我々(個々のメンバー)にも一寸した変化が生まれるような気がした。
その時のライヴではセットリストやアレンジをもう一度考え、皆んなで試してみた。
40年代のサウンドとノリの研究であったり、現代に昇華できそうな好きなアレンジを毎週火曜に練った。

そうこうしている内に全4曲のイメージが何となく出来てきた。
「セカイ系」イメージのA面の1曲目は、この時に土台は出来上がっていた、おもしろフラッシュの「マリオ死に過ぎ」から着想を得た“喪服の裾をからげ”。2曲目にはクイルや”The List”の女の子がノッてくれそうな小粋な踊れる曲。
そして「日常系」イメージのB面の1曲目は2010年頃のアニメのサントラっぽい曲にして、2曲目はビートのあるこれまた日常系の曲にしよう、とザックリではあるがイメージは固まった。

まだ再生する未来まではぼんやりとしか見えていなかったが、人との間の中で生まれていく熱を凄く感じた。
そして私のカセットテープを想う日々は続いた。
“好きな気持ちを伝えるには、ずっと想い続けるしかない”

冬が、この冬が始まった。