第四回 「あなぐる」

「これちかとさん作ったの?!」
「そうなんすよ、我々の新譜です」
「へぇーー、すっご!!めちゃいいんだが!」

昨日バイトの休憩でC先輩と唐揚げ定食を食べに行った。

「この絵も書いたの?」
「そうなんすよ!iPadで描きまして、それを手伝ってもらい“2色刷り“っていうので作ったんす」

すると「お待たせしました」と横から一声かかり、無意識に目の前のスペースを空けるとタルタルソースのかかった唐揚げがその場を満たした。

「へえーー、すごいねえ、お、ちゃんと名前も書いてあるやん。てかあのYouTubeの映像も作ったの?」
「葛飾出身って子と共作ですけどね!イメージと脚本とまでに言えないですが台詞は考えたんすよ」
「へえーーー、あ、だから2月あんまシフト入っとらんかったの?」
「そうそうそう、そうなんすよ。Cさん、エンドレス8って知ってます?」
「あぁーー、知ってる知ってる、ハルヒだよね」
「そうそうそうす。僕、2月ね、エンドレスW(ウィンター)渦中に居たんすよ」
「笑うんだが!(笑)ああ、やること多くて同じ毎日を繰り返してるみたいな?」
「まさに…、なんというか毎日違った脳からのアウトプットが続く感じでしたよ…」
「ああーー、曲作ったりYouTubeレコ発?の進めたり?」
「あと2月はレーベルのレコ発の前座もあって、我々のバンド色物感が強いからシュッとしているそのイベントにどう折り合いをつけるかってのも結構悩んだんすよね…」

お椀の底に沈む味噌を溶いで、2月の事を思い出す。
先に言っておこう。今回のコラムは「スーパー忙し自慢マン・ショーかよ」と思わず胸中で突っ込みざるを得ぬ読後感を与えてしまう可能性がある。
忙し自慢の文章を読むのはあまりにも酷であろう、そして私も出来るだけそれを避けたい。
しかし、先にここで謝っておきたい。

うさも跳ねる如なる月、2月。
その時の私はまさに、まさにエンドレスW(ウィンター)の渦中におり、繰り返し繰り返しの日々を直走っていた。

「え、録音も2月にやったの?」
「いえ、録音は1月なんですけどもミックスといった音のバランスを作る作業がありまして、それをレーベルの主が担ってくれて、相談しながら…あ!この一曲目シンセが入ってるんですけど、シンセだけ別日でそのアレンジが難航したりはありましたね」
「なるほどね~~、え、こういうカセットって業者とかにお願いするの?」

―――咀嚼する漬物の味が一瞬飛んだ。

もしもし、〇〇〇〇のKですぅ。

電話越しの京都弁の女性の声が脳裏で響く。
京都にあるカセットテープの業者さんでカセットのダビングが初めての我々に凄く、物凄く丁寧に対応してくださり、尚且つ京都弁に凄く癒され救われた記憶が脳にフラッシュされた。

「なるほどねぇ~~~、たしかにそれはエンドレスWだわ(笑)」
「そうなんすよ、それで何とか完成しましてねえ」

本当はさらに諸々やったことはあった。しかし、もう無粋な程に話してしまったし、静岡の夜明けの澄み渡る空気レベルに心の清らかな先輩の苦虫を噛み潰したような表情は出来るだけ見たくない。
冗談混じりで話せたからギリギリ飲み込めたが、ロックじゃきつい内容だ。
嘘で何とか良いバランスを模索しながら話を進めた。

そしてこの先輩とやりとりも、嘘だ。
エンドレス8って知ってます?という質問に返ってきた答えは「何それ?」であった。
そして唐揚げ定食を食べに行く理由も先輩に先に白状してあった。
文章を考えねばなのですが、2月がバタバタし過ぎて1日1日の記憶がほぼ無くて、それで”話して思い出そう作戦“に協力してもらえないですか…。と。

うさもピョンピョン跳ね廻る如なる月、2月。
アウトプットプットプットプットプットプットプットプットプットの毎日。
「ト」の発言もままならぬ、そんな日々。漫画やアニメ、バラエティにラジオと、息継ぎをしてまた鼻をつまんでカートゥーンアニメの様にものづくりの穴にまたあダイブする様な感じだ。

「うっわ、辛さアピールマン・ショーかよ」ともうこのページを離れYouTubeに移ろうとしたそこの貴方!頼む、もうちょっとだけ読んでっておくれ…。

休めないといった辛さはあるが、実際辛くはなかった。
いや、実際の実際辛かったかもしれないが、私にとって没頭のない日々より辛いものはない。
己の私生活を殺すことによって生きる私を生み出し続けたという、「生きる」ための欲を張ったというただの戯け話である。
そして誰かと共に創作を進められるということは最早「魔法」なのである。
其々の妄想が本当に”モノ“や”コト“に変わっていく実感と現象。
心血が枯れるまで注ごうと、”もうか“状態で2月の日々は過ごした。

手に取った時のwktk を。

唐揚げの、皿から所在地が消えた頃そろそろ戻りますかと席を立った。
結局その場ではジャケットの絵や各所に潜めた遊び心に先輩が反応してくれ、とても嬉し!の続く時間となった。
「なんかね、こんなけ曲がってるのに絵は素直なんだよね」

本当に忙しかったことを忙しかった!とストレート言えぬ側の人間。
バイト先でも音楽をやってることをなるだけ潜めてしまう側の人間。
けれどもなるべく明るく立ち回る様に過ごす。
そんな日々のバランスを取る感覚はなかなかにハードモードだが、それはそれでおもしろい。

“戻れないとこまで いかなきゃつまんない
さあ教えて 秘めてる願いを鏡に投げた”

ところがどっこい、エンドレスWはまだまだ続くのであった。
時を戻そう。